千葉の介護施設で入所者をペット用のオリに閉じ込めたり、両腕に金属の手錠をかけてベッドに拘束するなど虐待をした疑い。

毎日新聞 から転載です。

葉県浦安市の介護施設「ぶるーくろす癒海館(ゆかいかん)」で、入所者をペット用のオリに閉じ込めたり、両腕に金属の手錠をかけてベッドに拘束するなど虐待をした疑いがあることが分かった。関係者の通報で、浦安市と千葉県は高齢者虐待防止法に基づき7日と16日、合同で施設を調査しており、虐待が確認されれば告発も検討する。施設側は毎日新聞の取材に、手錠やひもによる身体拘束を認めたが「オリには(入所者が)自分からふざけて入った」と説明している。
 同施設には、認知症の高齢者や障害者など50代から80代の男女26人が入所。個室や8人部屋など約5部屋に分かれて生活し、職員4人が交代で介護している。同市のガイドブックには「有料老人ホーム」と書かれているが、介護施設として老人福祉法で定められた県への届け出はない。
 元職員の証言によると昨年11月ごろ、当時入所していた30代の障害者の男性が、高さ約150センチのペット用のオリに、布団、簡易トイレと共に入れられ、夜は鍵をかけられた。男性は交通事故で片足が不自由で、脳や言語に障害があった。外に出ようとして怒られ、おとなしくしていたといい、オリの中の生活は少なくとも元職員が退職する07年1月まで続いた。
 また元職員によると、午後7時ごろの最後の巡回の際、入所者の約半数をベッドから離れないよう身体を拘束。ビニールひもで胴体をベッドに縛ったり、市販の金具とボルトで自作した手錠で、手首をベッドにつないだりした。元職員がオリや拘束への疑問を口にすると、別の職員から「この施設は無認可だから関係ない」と言われたという。
 同施設の管理責任者によると、癒海館は6年前に元病院の建物を借りて開所したという。責任者は身体拘束の事実は認めたが、オリについては「他の患者をベッドから引きおろすので、反省するようオリを持って来たら、喜んで中に入った。遊んでいた」と説明した。
 施設は無届けのため、2年に1度の県の立ち入り検査や毎年の事業報告がなく、県や市は実態を把握していなかった。
 法務省人権擁護局は「事実ならば人権擁護上、見過ごせない事案であり、被害申告や情報提供などがあれば適切に対処したい」と話し、調査も視野に対応を検討する。【中川聡子】
 ◇行政は改善に力を

 ▽高齢者虐待防止に詳しい田中荘司・日本大学文理学部客員教授の話 身体拘束は80年代から人権侵害として施設に指導し、厚生労働省も「身体拘束ゼロ作戦」としてPRしてきた虐待行為。今回の施設は20人以上の入所者を24時間預かり介護しているという実態があるが、高齢者以外の入所者もいるという。法の谷間にあるような混合施設は今後増える可能性がある。福祉の名を借りて経済活動する典型的な例だ。行政は虐待を生みかねない運営状況の改善に力を入れるべきだ。
 ◇施設の実態と身体拘束の経緯語る
 入所者がオリに閉じ込められたり、自作の手錠でつながれたりする身体拘束が、職員の手で繰り返されていた千葉県浦安市の介護施設「ぶるーくろす癒海館(ゆかいかん)」。虐待が疑われる運営の実態は、県には無届けの施設であることもあって、高齢者虐待防止法に基づく関係者の通報があるまで分からなかった。施設の管理責任者は毎日新聞の取材に、運営状況や身体拘束の経緯を語った。一問一答は次の通り。【中川聡子】
 ――施設の形態は。
 ◆認知症の高齢者や精神障害者、交通事故で半身不随や脳に障害を持たれた方など、いろいろな入所者がいる。家計が苦しく、老朽化した施設でも仕方がないという方や、他の病院で“お手上げ状態”という方を受け入れている。26人の入所者を朝と夜は2人の職員で、昼間は、少ない時で1人で対応している。
 ――職員が足りないようだが。
 ◆介護保険を使わず入居料(一時金30万円、月額15万円前後)だけでやっているので、ほとんどボランティア状態で増やせない。
 ――入所者の身体拘束はしていたのか。
 ◆ベッドから落ちたり、栄養をとる管を取ったり、服やおむつをはいだりしないためにやっている。家族の同意も得ている。現場を知っている人なら、特別のことではないと分かる。
 ――ペット用のオリもあったようだが。
 ◆確かにオリはある。入っていたのは交通事故で脳に障害を持つ30歳代の男性。かんしゃくを起こすと止められず、他の患者をベッドから引きずり下ろすなど暴れるため、「反省して」と、オリにトイレと布団を運んだら喜んで中に入った。ふざけて遊んでいたようなもの。
 ――手錠型の金具で拘束もしていたようだが。
 ◆布ひもをほどいて誤って漂白剤を飲んで騒ぎになった人なので、金具にしてみた。本人はそれも外してしまった。
 ――今後はどう改善していくのか。
 ◆拘束なし、というのは難しい。マットレスに替えてみたり、いろいろ対策をしたが、見栄えも良くないし、転がるのを止められない。ただ今後は「拘束ゼロ」という市の方針にできるだけ沿っていく。
 ◇無届けの有料介護施設は増える傾向
 専門家らによると、無届けの有料介護施設は増える傾向にあるという。NPO法人「特養ホームを良くする市民の会」(東京都新宿区)の本間郁子理事長は「背景には高齢者施設の需要の多さに比べて供給が足りないことがある」と指摘。さらに「十分な人員できちんとケアを行っている施設は入居に必要な資金が数千万以上と高く、入りたくても入れない」と言う。
 一方、無届けであれば入居資金が100万円以下で済む施設もある。今回、問題が表面化した千葉県浦安市の介護施設は入居料30万円、月額15万円。こうした施設の運営は、営利だけが目的の異業種からの参入も増えているといい、自治体などの検査がないため「倉庫や社員寮を改装し、限られた人手で運営されているケースも少なくない」(本間理事長)という。「劣悪な環境の施設に仕方なく入っている高齢者がたくさんいる。行政は実態を把握し、サービスの質の確保をきちんと監視すべきだ」と訴える。
 高齢者をめぐっては昨年4月、高齢者虐待防止法が施行されたが、その後も後を絶たない。
 岡山市の特別養護老人ホームでは利用者が虐待されている疑いがあるとして昨年9月、県と岡山市が施設の立ち入り検査をした。福岡県星野村でも介護福祉士の男性職員が男性入所者(当時90歳)を虐待したとされ、同月に県の調査を受けた。職員は暴行を否定したが、暴言を一部認めて辞職している。
 法務省によると、老人福祉施設を含む社会福祉施設の職員による入所者への人権侵犯事件は増加傾向にあり、05年は前年比52%増の47件に達した。調査の結果、人権侵犯が確認されれば、刑事告発や勧告などの措置がとられる。【佐藤賢二郎、森本英彦】