お節介なアメリカ (ちくま新書 676) ノーム・チョムスキー

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 筆者ノーム・チョムスキーは1928年生まれ。言語学者。現代言語学に革命をもたらした。影響力は、哲学・心理学・コンピュータ科学などへと広範囲だ。反戦運動や政治・メディア批判によっても広く知られる。著書『メディア・コントロール』『覇権か、生存か』『9・11アメリカに報復する資格はない!』『知識人の責任『生成文法の企て』
 
 本書はニューヨーク・タイムズ社に向けて書いた記事をことの背景他の情報も加え増補したもの。ニューヨーク世界貿易センタービル等へのテロから1年後、2002年からイラク戦争開戦4年後の2007年までの記事が収録されている。実際にはニューヨーク・タイムズ社より1000字程度にまとめられた短い評論を記事として配信していたが大手の新聞社ではとりあげてもらえず地方紙に取り上げられていた程度だった。イギリス、メキシコの主要紙には彼の評論が載った。だが何故アメリカの主要紙に彼の評論が載せられないのか。「今日政治的矛盾や欺瞞、そして恐怖の核心をつくことがわかる。

 知らなかった事を以下に記す。
?イスラエルに高い壁があること。防護フェンスとしてパレスチナ人の土地を奪っている。
?「なぜ彼らはわれわれを憎むのか?」大統領はこう問いかけ国家安全保障委員会はアメリカがアラブ諸国の石油資源を支配したいがために圧政的な政府を支援し政治的・経済的な発展に異をとなえていると概説している。これを「彼らはアメリカ人を憎み、その自由を憎んでいる」にすり替えている。
?現政権の目的は「外部の敵への恐怖心を煽り不満をナショナリズムへ転換させる手段」「絶対的な軍事的優位を利用しアメリカ一極支配の世界を構築すること」
?フセインがイラン人クルド人化学兵器を使用した際アメリカは支持をしていた。
?アメリカのイラクへの戦争前はイランをけしかけイラクと戦わせアメリカ兵の犠牲を出さないようにする戦略もあった。
?イラクへの戦争により大量破壊兵器が闇の市場へ流れテロリストの手に渡るといったことはなかった。論者は侵略の根拠となる大量破壊兵器そのものが存在しないとは思わなかったのだろう。
?武器販売会社が暴利を貪った。
?湾岸諸国の95%が今回の戦争をアメリカが石油を手に入れたいがためだと考えている。
?国際司法裁判所はイスラエルに建設された壁を違法だと宣言した。
?アメリカは予防戦争を行使する権限を持つと宣言している。脅威と考えられるものを消滅させても良い。
?アフガン戦争に触れこの戦争が「正義の戦争」と示されそれでいて、何の疑念もない提起されないという事実は、西欧の倫理的実態に関する解説となっている
?米国政府の言い訳や口実がくるくる変わる
?北朝鮮はアメリカの標的となる条件を満たしていない。「無防備である。」「資源が豊富にある。」
?北朝鮮が米国貨幣を偽造しているというニュースが流れたがどうも信憑性が薄いようだ。
?フセインが不正義を行っていた時期はアメリカ、イギリスが資金援助していた次期と重なる。そうしてアメリカは2、3年に一度方向転換する昔は無知や手違いもあって違う方向を向いていた。だが過去のことはいくら悔いてもしかたがないじゃないか現在を生きようという原則。等々

 冒頭で著者は読者がより良い形の社会正義、人権、民主主義を作り出す為、働きかけるとある。また結びで我々は、野蛮で暴力的な国家でおとなしくしている知識人たちを、その権力への順応主義的な服従ゆえに、当然非難する。西側諸国の知識人は全体主義者の指導者よりも罪が重いと述べられ日本も三極委員会として後で非難されている。

 本文中ではアメリカの帝国主義精神は一部の人間がすすめているのに過ぎない。多くのアメリカ国民は賛同していないとも書かれている。だが日本に住む私たちはアメリカへ否を言えるのか。キューバ、ハイチ、イラク、アフガニスタンなどアメリカ帝国への反抗を示す国家はかつて支援関係があったとしても断罪されている。アメリカの帝国主義精神、グローバリズムによる覇権の前には個人の正義感で異を唱えようとも抗うことは出来ない。従順でいることしか出来ないと考える。
 
国家を一つの生き物と考えれば軍事、政治、経済それぞれの支配をすすめパワーを得るのが本能なのだ。正義、悪の二元論に立ちアメリカが嫌いと叫んでも土俵も違うしパワーも日本と比較にならない。マスコミが意図的にアメリカ批判の記事が少ないということを甘んじてよいのだ。10年も20年前はなんだかアメリカは素晴らしい憧れよう文化も模倣しようという誘導に乗っかり楽しかったじゃないか。そしてそんな事さえ気づかなくて良い。自身の中で審判を行わなければならないようなアメリカ帝国が行っている価値矛盾を法廷に上げてはいけない。視野は狭ければ狭いほうがいい。消費ゲームに明け暮れて人生を過ごそう。それが私達の世界なのだから

今年5月に書いたレビューですがもう古い。アメリカ帝国は崩壊してしまったかに見えるから。