配管の中で窒息するウグイ
[ウグイ]
「鵜の食いたる魚」という意味で、あまり人の食べるものとは思われていなかった。
暑い夏だった。
小学校高学年のわたしは不気味な程に大きなウグイを淀んだ川で釣り上げ家に持ち帰った。
うぐいなど雑魚である。
だがそのウグイは雑魚には見えない。
黒光りする鱗は
何かしなければいられない気にさせた。
だが私は何をすればいいのだろうか。
そうだ飼ってやろう
こんなウグイはめったにいない。
川に戻さずっと手元に置き飼いつづけてやろう。
水に入れてやれば息も続くし
一日ずっと眺められるじゃないか。
割り箸で突付いて跳ねさせればいいじゃないか。
水はどこ?
私の目に浮かんだのは「白」だった。
白い水洗トイレの貯水たんくはとても広いのだ。
白い水洗トイレの貯水タンク、蓋からぽちゃ。
なんと黒い魚体に白が映えるではないか。
ああ
ああ小便を催した。
そして水洗トイレを流す。
あ
あ
水が少ししか流れない。
ふと蓋を開けて覗く。
覗くと
ぱくぱく口をさせたウグイが頭だけを出している。
魚体八分は水洗トイレの配管の中。
恐慌が訪れる。
だが思いつく。
割り箸で突けばいい
突いてみた。
ポン
水と一緒にウグイは流れ落ちてゆく。
安堵。小学生は知らない言葉だ。
だが
配管を思え、浮かべろ
配管は便器につながり途絶えているではないか。
するとどうなる。
どうなると思う。
もちろんウグイは息絶えたよ。
しかし
配管から流れてくるのだ
赤い
赤いウグイの血が
私以外の誰がそれを知ろう。
家族は水洗トイレからしたたり落ちる血に
何を思い怖れただろう。
二十年過ぎ
真を知る。