正確に記録し、保存を

質の向上に不可欠

 施設での介助は多くの人がかかわるチーム作業だ。だからこそ、お年寄りの様子を記す記録が大事になる。スタッフが情報を共有し、介護の質の向上に欠かせない。

 「事故当時の記録が書き換えられたものであったことから、(職員の)証言は採用できない」。福岡地裁は昨年8月、介護の記録の改ざんをとがめ、98歳の女性に約470万円の賠償金を払うよう福岡県内のデイサービス施設に命じた。

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 事故は00年11月の昼下がりに起こった。女性(要介護度4)は、畳の静養室の布団で昼寝から覚めた後、入り口付近で約40センチ下の床へ落ちた。横の機能訓練室との間に段差があったのだ。訓練室には2人の職員がいたが、見守っていた1人は転ぶ直前に客が来たために玄関へ立ち、もう1人は静養室から死角の机で事務作業をしていた。

 右大腿(だいたい)けい部が折れ、右足が動かなくなった。左足の関節はもともと悪く、歩けなくなった。

 家族の相談を受け、池永満弁護士は施設に問い合わせた。施設は01年3月、事故日を含む3日分を1枚に記した「デイサービス個人記録」を池永弁護士の事務所へファクスしてきた。女性の日々の状態を記した内容だ。

 続く補償交渉はまとまらず、同年10月に司法の場へ持ち込まれた。

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 裁判の争点は、見守りを怠ったかどうかだった。1年10カ月に及んだ争いの中で「ハイライトは証人尋問だった」と池永弁護士は振り返る。

 施設側から証拠として出されたデイサービス個人記録を見て、池永弁護士は首をかしげた。ファクスには「午後は布団で昼寝される……あっと言う瞬間の出来事」とあった。それが、今回の書面では「午後は昼寝された……あっと言う間の出来事」と微妙に違っていた。

 池永弁護士は40代の女性スタッフへの証人尋問で、まず証拠の書面を示しながら、確認した。

 弁護士「何回か記録することはしてませんね」

 スタッフ「ありません」

 次に当初のファクスを示した。

 弁護士「では、これ(ファクス)に見覚えは」

 スタッフ「私の字です」

 弁護士「どうして2種類書いたんですか」

 スタッフ「……」

 その後、スタッフは「思い出せません」「覚えてません」と繰り返した。

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 国の運営基準では、施設はケアの内容や苦情などを記録し、2年間保管しなくてはならない。統一書式はない。ただ、「適正に書く」(厚生労働省)のは常識だ。

 判決は、自分で起き出す人ではなかったとの施設の主張を「事故まで52回通い、ものにつかまって歩き始めることがあった」と退けた。さらに「玄関へ立つとき、寝ていた。事故は予見できなかった」との言い分も「見守りを引き継がず席を外した」などと入れなかった。

 「このくらいの事故で責任を取らされたらケアなどできないという居直りに似た雰囲気だった」と池永弁護士。女性は勝ったが、完全に車椅子生活になった。

 施設長は取材に「より正確に伝えようと書き直した。見守りを徹底するしかない」と答えた。<文・横田一/写真・山本晋>

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毎日新聞 2004年10月14日 東京朝刊