成績会議だって

 私は私立文系大学を卒業しましたが高校のとき親のミエで国公立コースに進み英語、数学は1学期、2学期ともに1でした。親も学校に呼ばれ進級も危ぶまれましたが無事卒業しましたよ。高校2年生担任は「大学なんて無理。」などと進路指導でのたまってたな。あんたの言うこと信じなくて正解だったよ。
 あと成績会議の様子って以下のようなもんらしい。
 
 この高校は学力低下が深刻になってきた 公立高校で、学校全体でなんとかしなければならないという機運が感じられる。構成は校長、教頭、教諭48名(男子教員40名、女子教員8名、教員の平均年齢は42歳)、生徒数約1000名の 元名門高校である。


教 頭  ただいまから成績会議を始めます。これまで各教科会、拡大学年会、学年会、学年主任会を経て今日の成績会議に至りました。学年末試験の後の日程が詰っていましたので、なにかと忙しかったと思います。どうもご苦労さまでした。教育の自由化、個性化, 多様化とよく言われますが、評価・評定に問題点があれば、それまでの努力は無駄になリます。高校の学力低下が問題になっていることはご存じの通りです。三年生の卒業に関する成績会議は、二月の初めに行いましたが、ご承知のように本校でも学力低下が問題でした。学力向上の方策なども、この機会に考えてみたいと思います。では、はじめに校長先生からお願い致します。
校 長  教頭先生から話があったように、本校に限らずどの学校でも 低学力問題に悩んでいる状況です。校長会でも問題にしているが、なにしろ、高校が輪切りになっていて、低学力問題といっても各学校によってかなり事情が違い、校長どうしで対応策を話し合っても噛み合わず、いつも困ったものだということで、具体的な改善策が見つからないのが現状です。この低学力問題は、結局、各学校の工夫と努力で解決しなければならないのではないかと思う。いつも私が言っているように、学校では教育論よりも教育実践によって教育を改善 していくのが、最善の策ではないかと思う。この成績会議もそのような観点で行ってもらいたい。
教 頭  二年生の学年主任からお願いします。
学年主任A先生 お手許の成績会議資料をご覧ください。年度当初の在籍数は379名で、二学期の初めに他の府県立や私立から8名が転入しましたので、現在の在籍は387名です。
 この内、2名が休学していますから、評定を受けたものは385名になります。この385名の中に入リますが、三組のS君が心身の不調を訴え、体育、保健、数学が本校の内規の欠席時数三分の一を越えています。後程、担任から S君の事情を詳しく説明をしてもらいます。履修不認定ということで、審議の対象になると思いますので、よろしくお願い致します。
 5点評価で平均点4.3以上の成績上位者23名で、この内、女子は14名です。相変わらず成績上位者は女子が多く、平均点の最高も女子で4.9です。 評定1を一科目以上とった成績下位の生徒は、男子12名、女子7名です。その他、基本的な生活習慣に問題のある生徒はかなりあって、会議資料の表にありますように、いずれも遅刻の回数が多いなどに現れています。
教 頭  以上の説明がありましたが、評定1をとった生徒のうち、何人かは進級できない生徒が出ると思われます。進級・卒業の内規を確認したいので、教務主任のB先生、進級・卒業の内規を読んでみてください。
教務主任B先生  では読みます。
 認定の条件 : 原則として、次の項目を満たしている場合には進級、卒業を認定するものとする。
 ●出席日数が当該学年の授業日数の三分の二以上であること。
 ●全ての科目の履修が認定されていること。
 ●修得単位数が、下記の所定の単位数に達していること。
   一学年26単位以上、二学年一、二年の累計が56単位以上、三学年一、二、三年の累計83単位以上。 
 ●当該学年で単位不認定の科目が二科目以下であること。
 ●特別活動の履修状況が良好であること。
 ●性行等に特に問題がないこと。
 以上です。

◇教科・科目の評価・評定方法の問題点

教 頭  ありがとうございました。
 学年主任と教務主任からの説明と内規について、質問あるいはご意見でも結構ですが、ありましたらどうぞ。
C先生  内規に照らして考えてみますと、今年の二年生には、いわゆる落第候補が4人いることになリます。この成績会議資料によりますと評定1が二科目あるものが3人、帰国生ですが三科目が1人います。落第となると、本人や親にとっても重大なことですから、この4人については、慎重に審議していただきたいと思います。
D 先生  ある意昧で質問しにくいのですが、評定1をとった生徒が全部で19人います。そのうち、評定1が英語に集中しています。これは何か特別な理由があるのでしょうか。
教 頭  英語以外の教科では一人か二人ですが、英語が多いようです。それでは、この辺りも含めて、英語科から学習指導の状況、当該教科・科目の評価・評定について説明してください。
英語科主任 E 先生  この学校には、学習指導に関する教科主任会がないので、他の教科の学習指導の状況は成績会議の日まで分からない。常々困ったことだと思っていたところです。英語だけ評定1の生徒が8人いるから、これが評定2以上であれば、成績下位者の19人が11人になる。申し訳ないような気がしないわけでもないのですが・・・。
 英語科では、年間5回ある中間試験、学期末試験の合計点500点満点の平均点の二分の一以下を評定1としています。このようにして処理しますと、結果は成績会議資料のようになります。 私もこの学校に長い間いますが、大体毎年同じ程度の問題を出しています。これまでこんなことはなかったのですが、どうもこの頃本校の生徒の能力が低くなって、学力をつけるのが難しくなりました。とにかく困ったことですよ。
教 頭  先ほどの4人についてみると、S君は英語と国語、M君は英語と保健、帰国生のK君は国語と理科と美術、T君は英語と数学です。この4人のうち3人は英語を落とすと内規によって原級留置 ( 落第 ) になります。英語科でも時間をかけて審議をしたと思いますが、先ほどの校長先生のお話にあるように、よい機会ですので、これから少し時間をとって、評価・評定・学力・学習指導などについて考えてみましょう。
数学科主任 F 先生  他の教科に干渉するようで恐縮ですが、評定平均の二分の一以下を評定1にする英語科の評価の方法は、どうも機械的過ぎるように思いますが、どうでしょうか。ご参考までに申し上げますが、私どもの数学科では平均点を中心にして、成績の分布表を作ることにしています。その分布表を教科会で検討し、慎重に評価・評定しています。
教 頭  英語科と数学科の評価・評定についてうかがいましたが、その他の教科もお聞かせ願いませんか。国語科はどうでしょうか。
国語科主任 G 先生  お互いに評価の勉強になるということでお話したいと思います。本来は、各先生方が生徒個人の学力をどのように評価するかが問題ですが、それはその教科の性格などもあり、教科会でするとして、先程からの最終の評定のところでは、国語科としては、いうならば相対評価を加味した絶対評価(?)とでもいいますか、とにかく評定1が大勢出たら、そこのところであまリ非常識な結果にならないように調整しています。
社会科主任 H 先生 社会科は、ご存じのように科目によって内容が違います。各科目担当の先生は二人か一人ですから、社会科としてまとまって評価・評定をすることはあリませんが、生徒にとってあまり不利にはならないようにというような申し合わせはしてあります。
体育科主任 I 先生 大体、数学科と同じように思いますが、体育科は実技と出席時間数を重視しますので、評価・評定の処理は、他の教科より複雑になります。
教 頭 芸術科と家庭科は担当の先生は一人ですので、時間の関係がありますから、別の機会にいたしましょう。

◇評価・評定とは

教務主任B先生  評価について、少し意見があるのですがよろしいでしょうか。
教 頭 どうぞ。
教務主任B先生 学習指導を計画するときに、細かい段階を含めていろいろと考えますが、大きく分けると三つになるといわれています。この場合に、われわれ教師の立場で考えがちですが、生徒の立場で考えるとより教育的 です。その三つというのは?@目標、?A方法、?B測定(評価)です。?@目標は教師の立場では教える価値のあるものは何か、生徒側からいえば学ぶ価値のあるものは何かということになる。?Aの方法はどうすれば最もよく教えることができるか、最もよく学習することができるか、?Bの測定は、それらをどの程度まで教えることができたか、それらをどの程度学習できたか、です。長年、教師をしていれば、当たり前のようなことですが、この第三の測定が、要するに評価です。そこで、いま成績会議で取り上げている評価を定義してみますと、生徒がどの程度に学習目標を達成できたか ということを考えることになります。つまり、先程、国語科の G 先生も触れていましたが、生徒個人の学力の伸びを評価・評定することが重要であると思われます。
校 長 いま、教務主任のB先生の言ったことは大切です。目標、方法、測定つまり評価、これらを含めて、これからの学習指導はどのようにしていけばいいか、いわば評価を含めた授業改善の要点ですが、次のように言われています。
 その一つは完全習得学習です。単位を取れない生徒がいて当たり前ではないということ。第二に評価の対象を生徒全体から生徒個人へ移す。平均点や偏差値で評価しない。第三に学習指導の途中で行う 形成的評価 を入れること、つまり学期末試験をしてみたら学力がついていなかったでは後の祭りですから、小刻みにモニターしながら学力をつけていこうというわけです。よく考えてみると分かりますが、この原理は 『全ての生徒に学力を保証し、競争主義を否定する学習指導』 なのです。

◇旧態依然とした評価観

X 先生  校長先生は、全ての生徒に学力を保証するといわれたが、そんなことが果たしてできるのでしょうかねえ。競争主義を否定するということですが、むしろこの時代には競争があることの方が自然だと私は思う。むしろ、全生徒の学習成績を廊下にでも張り出せば学校が締まってくる。また、それが刺激になって、生徒は勉強する気になるのではないかと思いますがね。
教 頭  校長先生からお答えがあると思いますが、その前に。ある母親が深刻な顔で言っていました。『生徒は学力をつけるために高校に来る。それなのに 先生が評定1をつけて落第させる のはおかしいのではないか』。 われわれはプロなのだから、単純に考えてみても学力低下、単位が修得できない原因は、生徒にばかりあるとは言えないのではないでしょうか。
Y 先生  そうすると何ですか、私たちの教え方、評価・評定のやり方が悪いとでもいうのですか、教頭先生。平均点や偏差値を基準に評価・評定していることは、どこの学校でも定着していることだし、教育関係者の常識です。就職、進学もこれでやっていることは、周知の事実です。高校は義務教育でもないし、これまで通りでいいんではないですか。
教 頭  短絡的にそのように受け止められては困るが。確かに、この頃、授業もやり難くなったのは分かります。始業の合図があっても、生徒は廊下に居て、先生が声を掛けないと、教室に入ってこない。教室に入っても、教科書を出していない。先生方のご苦労はよく分かります。 
校 長  まず、競争主義の否定だが、生徒一人一人が学力をつけるのに、なぜ他の生徒と競わせる必要があるのだろうかと私は思う。生徒の競争意識を利用することはある程度までは有効だろうが、限界があると思う。入学試験、学期末試験など加熱している日本のこの状況を、外国ではラット・レース(ねずみの競争)といって軽蔑しているという。感じやすい年頃でもあり、学力をつけるのに競争させては生徒の人間関係も悪くなる。第一、先生方も生徒を扱っていてご存知のように、能力の低い生徒は精神的にも虚弱で、とても競争という厳しい状況に対応できないものです。生徒がいやがるような、仲のいい友だちとの競争を利用せず、もっと有効な学習指導方法はないものでしょうか。今日の成績会議では、初めに平均点の話があったが、平均点は参考資料として誰でも使とうことで、このことついては問題はない。しかし、生徒の成績を統計的に処理して平均点を計算し、その平均点をもとにして、生徒の成績を五段階に評定するのには問題があるとは思いませんか。教務主任が先程説明していた「先生が、どの程度教えることができたか」については、平均点による評価では、漠然とその生徒集団全体に対する位置付けしかわからないことになる。 生徒個人がどの程度学習目標を達成できたかは分からない。つまり、毎回、試験の得点で生徒を並べ替えているだけのことになり、生徒の学力を評価していることにはならないのです。単位が取れない生徒がいて当たり前のようなことを言った先生がいるが、とんでもないことです。全ての生徒に学力を保証する原理を見失った高校があるとすると、 高校としては体をなしていない と私は思う。また、もし生徒に 学力をつけられない教員がいるとすれば、教員失格 ですよ。
X 先生  校長、それ理想論ですよ。教室に行って見れば分かることだが、生徒は全然やる気がない。完全習得など、とても駄目だ。机上の空論だ。校長の実践論と矛盾するじゃないですか。
Y 先生  行事、行事で忙しいのに、のんびり形成的評価などやれるわけがない。もし、この学校で授業や評価の改善をしたいのなら、持ち時間数を軽減するか、一学級の生徒数を三十人ぐらいにしてもらいたい。
校 長  高校への進学率が少なかった時代には、教員を含む教育条件が悪くても能力の高い生徒が多かったので、生徒が学校側に合わせて<れたものだ。それが今ではほとんど全ての生徒が高校に行くようになり、生徒も多様になってきた。すでに、学校での教育はプロでなければできない時代が来ている。しかし、一般に行われている高校の教育活動は、誰にでもできたかつての後期中等教育の延長線上にあり、教育原理も教育技術も昔のままになっている。とにかく、よく考えてみれば分かるように、現代の社会に対応できる高校教育とは何か、高校教員の専門職性とは何か、この辺リが問題だね。
 ところで、教頭先生、本校は重要な課題は別の日に研修会を設けて、その課題だけについて全員で話し合うことになっていたね。どうだろう、いま議論していることは大変重要だから、今日は成績会議ということもあり、来年度の四月早々研修会を開き、そこで思う存分話し合ってみたらどうだろう。議論の途中だが、そのことを皆に聞いてみてくれないか。
教 頭  そうですね。成績会議で時間もありませんし、その方がいいと思います。
 それではこの件につきましては、日を改めて研修会のテーマとして取り上げたいと思いますが如何でしょうか。
 賛成の方、挙手願います。・・・・・賛成、多数。この件については後日、研修会で話し合うことにいたします。
 それでは、審議を続けます。二年二組のS君、M君、三組のK君、七組N君については、原級留置と関係がありますので、先に扱います。該当する担任の先生、各生徒の事情を説明してください。

 この後、延々5時間、成績会議は継続した。上記留年を含む問題の生徒については、この日の成績会議では結論を出さずに、補習、追試などで三月二十五日まで指導し、今年度中に再度当該生徒だけの成績会議を行うことにした。